大学生による地域資源磨き上げ大作戦!

2025.9.11

早稲田大学生が見た地域創生の現実と可能性

愛知県の山間地域と大学生をつなぐ地域創生プロジェクト「あいちの山里 大学生による地域資源磨き上げ大作戦!」において、早稲田大学マーケティング研究会の学生7名が、9月11日(木)から13日(土)の3日間、愛知県山間地域での本格的なフィールドワークを実施しました。

【1日目】岡崎市中山間地域での実地調査から見えた課題と提言

初日の9月11日、愛知県岡崎市の額田地区で地域創生の現場を体験し、観光振興と移住促進の複雑な関係について、深い洞察を得ました。

個別の取組は素晴らしいが、全体戦略に課題

学生たちは岡崎市役所額田支所での説明、岡崎市ホタル学校の見学、カフェ 柚子木での地域住民との交流を通じて、現地の取組に感動を覚えました。特に印象的だったのは、カフェ 柚子木を経営する柚子農家の赤松さんから説明を受けた「かき氷街道」の取組です。64年間地元に住み続ける赤松氏の「小学生の頃から憧れていた場所を多くの人に体験してもらいたい」という想いに触れ、学生たちは地域愛の大切さを実感しました。また、「水があるだけですごい」という都市部にはない自然の豊かさや、岡崎市ホタル学校での純粋なホタル愛あふれる説明にも心を打たれました。 一方で、学生から「個々の店舗や事業者は素晴らしい取組をしているけれど、地域全体として何を目指しているかをもっと明確にした方がいいのでは」という意見も出ました。また、岡崎市中山間政策課小早川主査から岡崎市が実施している様々な施策について説明を受け、「観光地を作ることと、今住んでいる人の不便を解消することの二軸に分けられる」と政策構造を整理し、地域創生の多面性について考えを深めました。

観光と移住は分けて考えるべき

最も鋭い指摘として、「観光地で楽しい体験をしても、そこに住もうとは絶対につながらない。観光地化を進めすぎると移住のイメージがつかなくなる」との意見が出ました。学生たちは観光振興と移住促進を同一視することの危険性を認識し、それぞれ異なる戦略が必要だと提言しました。

関係人口創出への期待

地域住民との対話を通じて「温かさ」を実感した学生からは、関係人口創出の可能性について積極的な評価が示されました。特に「人の魅力に人は惹かれる」「移動時間も含めた地域体験全体が価値となる」との考察は、地域の本質的魅力を発見したものといえます。 初日の調査を通じて学生たちは、地域創生の現場で活動する人々の熱意を高く評価しつつ、戦略的な課題についても建設的な提言を行い、若い世代ならではの客観的視点を示しました。

【2日目】移住者たちとの出会いと地域の新たな魅力発見

9月12日、愛知県東栄町で2日目のフィールドワークを実施し、地域創生の多様な形を体験しました。

廃校の利活用方法に驚き

のき山学校では、2010年に閉校した小学校をカフェや体験プログラム、和太鼓活動の拠点として活用している事例に学生たちは感心しました。「廃校を地域文化の継承と新しい交流の場として生まれ変わらせる取組が素晴らしい」と、地域資源の有効活用を実感しました。また、700年続く花祭りについて「鬼がスーパーヒーローという発想が面白い」と、地域文化の独自性に感銘を受けました。

移住者たちの等身大の想い

古民家ダイナー「月猿虎」では、東栄町に移住して8年目となる、名古屋市出身の河原さんとアメリカ出身の妻Tanaさんから体験談を聞きました。「都会と同等の収入は期待できないが、好きなことに集中できる時間がある」という率直な話に、学生からは「お金よりも生活の質を重視する価値観の転換が印象的」との声が上がりました。 ゲストハウス「danon」の沖縄県出身オーナー金城愛さんは「永住にこだわらず、様々な関わり方ができる人を増やしたい」と語り、学生は「10年間この地域で活動してきた実体験を聞いて、関係人口の多様な形を学ぶことができた」と、地域との関わり方の幅広さを実感しました。

プラネタリウムで感じた星空の魅力

スターフォーレスト御園では曇天のため、野外での星空観察はできず、1960年代製のアナログ式プラネタリウムを体験しました。神谷さんによる愛情あふれる施設解説と手動操作での星座案内に、学生たちは「都市部では絶対に体験できない貴重な時間だった」と感動しました。30年前から続く光害対策の取組についても学び、「晴れた日にぜひ実際の星空を見に戻ってきたい」との声が多く聞かれました。

地域創生の本質を問い直す

2日目の振り返りでは、学生たちから深い洞察が示されました。「人口を増やすことだけが目的ではない。この地域を愛する可能性がある人たちに、この地域のことを知ってもらうことが重要」「移住促進と現在の雰囲気維持は同時に実現が困難で、いつか地域として方向性を決断する時が来る」といった、従来の地方創生政策を根本から問い直す意見が出ました。 特に印象的だったのは「俺が作った、私が作ったと言えるような参加型の関わり方をする人を増やすことで、関係人口の拡大を図りたい。」という意見で、単なる観光消費から地域への能動的参加への転換を求める声が多く聞かれました。学生たちは最終日への期待を高めながら、地域創生の新しい形を模索し続けました。

【3日目】最終日、観光まちづくり協会と温泉旅館での学びから

9月13日、3日間のフィールドワークの最終日を迎え、東栄町観光まちづくり協会と湯谷温泉で地域創生の具体的な手法を学びました。

住民主体の組織運営に感銘

東栄町観光まちづくり協会では、伊藤拓真さんから「まちづくりがメイン、観光は手段」という考え方を聞きました。学生たちは自転車を活用した街巡り事業「ぽたび」や、住民ライターによる情報紙「瓦版」の取組に注目。特にホタル観賞イベントが町民数(約2,600人)を上回る3,000人を集客した実績に驚きを示しました。 「行政だけでは限界があるという課題を、住民と行政の中間組織が解決している」と学生は分析しました。一方で「人材不足による展開制限が課題だが、地域の若者が貴重な存在として活躍できる環境がある」との気づきも得ました。

外国人客へのシフト戦略を学ぶ

湯谷温泉のHoo!Hoo!では、加藤直詳さんから温泉街の歴史と現在の挑戦について聞きました。湯谷温泉の宿泊者数がバブル期の年間7万人から現在の3万人へと減少したことを踏まえ、「従来の高齢客層から若年層・外国人客にターゲットを変更した」という戦略転換が印象的でした。 学生からは「静寂を売りにする差別化戦略が面白い」「賑やかな温泉街ではなく、森の中の静かな温泉地として再定義する発想が斬新」との声が上がりました。特に外国人客の職業(大学研究者、政府官僚など)や利用形態(長期滞在、高リピート率)について「ターゲットを明確化することの重要性を実感した」と分析しました。

地域づくりの本質を再発見

3日間を通じて学生たちは、人口減少を前提とした地域づくりの可能性を発見しました。「楽しさから入る重要性」「自分が関われる感覚の提供」という伊藤拓真さんの言葉に、関係人口拡大の新しいアプローチを見出しました。 また、外国人労働者の活用や起業支援オフィスとしての温泉旅館活用など、従来の観光業の枠を超えた取組に「地方だからこそできる柔軟な発想」を感じ取りました。 最終日を終えた学生たちは「地域の人たちが普通だと思っている営みに美しさがある」「実際に現地に足を運んで地域の方々と話すことでしか得られない学びがあった」と振り返り、今後も地域との関係を大切にしていきたいとの想いを語りました。